どんどん吸い込まれていくビリヤニ

パキスタン料理屋さんに来ている。

 

白い漆喰調の壁には
頭が働いていなくても景色が広がるようなフィルム印刷の美しい風景写真が数枚。
隣には、星の下に三日月が浮かぶ緑の国旗。


特に愛想がいいわけでも悪いわけでもない。
マスクをしていないのに表情の読めない店員さんにオーダーを伝えて
あたりを見回してみる。


特に整頓されているわけでもないカウンター。
自分では選ばないであろう民族調なインテリア。
雑然としているようで”ない”ようにも感じる置物。

普段取り入れることのないテイストなのに妙に落ち着く。


音楽のかかっていない静かな店内は
空調から勢いよく吹き出す涼しい風と
首振りの扇風機に攪拌される空気の音だけが
ここちよく響いている。


あー、ここ。
なんかいいな。


なにもしてなくても居ても良いと
空間が言っている。


そうこうしているうちにお目当てのものが出てきた。
山盛りに高く積まれたビリヤニ

両掌を全開にしても覆いきれない量。
おそらくお茶碗3膳ほどはあるんじゃなかろうか。

スパイシーな香りのするカラフルなお米の山の中から
ちょこちょこと顔を出す真っ赤なチキンとカリっと焼かれたジャガイモ。


においに促されるままスプーンを口に運んだ。
ほろほろと転がる米とスパイス、時間差でピリリと刺激する辛味。
時折現れる香ばしくシャキシャキしたフライドオニオン。
それぞれがそれぞれの良さをしっかり演出をしていた。

 

スプーンを介しているのに
まるでお皿から直接吸い上げているかのように
体になだれ込んでくるビリヤニ


空調からの風が触れるたびにふわっと揺れ動くフィルム写真は
景色の美しさと相まって涼やかさを演出してくれる。

食が進むとはまさにこのこと。


あっという間だった。


この量がなくなるとは。
実際におなかははちきれんばかりにサイズアップしている。
にもかかわらず、まだ食べられるような気持ちになってしまう不思議。
これはビリヤニの魔力か。


普段は食後割とすぐに退店してしまうところだが、
なんだかこの空間にもう少し身を留めたくて
そうするのが自然な流れなきがして
何をするでもなく、ただ、静かに呼吸をしていた。

満足。

フルコースって実はこういうことを言うんじゃないだろうか
と今思うほど、時間をすべて楽しんだ食事。


ただの摂取ではなく、
食事を満喫することをしみじみ感じた平日の夜でした。